第1章 若葉ノ囁キ

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「神を納めると書いて神納(じんのう)という。彼らは自らの霊力を使い、神を鎮めていく。だが、鎮めても神を納めることは出来ない。それが出来るのが彼女、私の娘だ」 「サヤ……」 サヤの名が自然と口から零れ、切なく呟くアサギ。 「そう、サヤは私と同じ、先代の神納めの巫女だ。まあ多少膨よかすぎるところがあるが……あれでも巫女だ」 「………」 彼には思い当たる節があるのか、難しそうな顔をして足元を見つめる。 「少しばかり昔話をしよう」 碓氷は急に足を止めるとガラス障子から覗く満月を見つめ、ぽつりと話し始めた。 「あれは、そう、遥か昔、今から千年も前の話だ。この村にはまだ神が実在していた。そして神々は我々人間をなぜか襲うようになった。それが災害という形になって災いを各地に撒き散らしていった。村長は窮地に立たされた村のため、碓氷家を呼び、一時的封印を行ったのだ。彼女も連れてな。結果封印は成功し、村に平穏が訪れたとさ」 めでたしめでたし、と語りを終わらし、そして、と言葉を続ける。 「一九九六年になった今、彼女、サヤ含むカミツカイ達のおかげで今のこの村、二三東村(ふにとうむら)があるんだ」 そういうと彼はアサギの方を見て様子を見る。 が、しかし、彼にとっては面白くなかったのか、眉間に深くしわを寄せ憤怒してるかのような表情だった。 「……どうしてそんな顔をしているのだ?まるでこの話の真相を知っているかのように」 「…………」 彼は黙って碓氷の隣を通り過ぎ、 「……いえ、あなたの顔がよく見えなくて、目を凝らしていただけだ」 しばらく先を歩いていたアサギだが、ふと止まり、碓氷の方を振り返る。 「今度はどこへ?先を急ごうか」 と笑みを浮かべながら話すがその目は笑っていなかった。 そんな彼に気付いてるか気付いてないか、碓氷は連れて微笑み彼に近づく。 「そうそう慌てなさんな。もうじき宴が始まる」 「宴?」 「君を迎え入れる、歓迎会さ」
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