永遠などない

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私たちは近くのチェーンのパブに入った。カウンターで彼はビールを、私も同じものを頼んだ。先に席についていた彼は、ビールを片手に近づく私を見てふっと笑みを浮かべた。 「何ですか?」 「いや、君も大人になったんだなって思って。あの頃は、俺が勧めたビールを子供は飲んじゃダメなんだって断ってたのに。」 私は顔が赤くなるのを感じた。 「いつの話をしてるんですか。十何年も前の話ですよ。」 「そっか。時が経つのは早いね。」 そう言って彼はグラスを持ち上げた。 「乾杯。」 「乾杯。」 グラスが触れ合う音がした。私は少しだけビールに口をつけた。苦みを含んだ炭酸が口の中ではじけ、その後かすかな甘さが広がる。私はその味につられるように口を開いた。 「笹山さん、離婚されたんですか?」 私の不躾な質問に笹山は一瞬動きを止め、そしておかしそうに目元を緩めた。 「そういうところは前と変わらないね。答えにくい質問を率直に聞いてくる。」 やはり失礼な質問だったと私は慌てて頭を下げた。 「すいません。つい昔のことを思い出して、気持ちも昔に戻ってしまって。」 「いや、気にしないで。俺も昔に戻ったようで懐かしかっただけだから。」 彼は笑って、謝る私を制止した。そうしてまた彼はビールを一口飲んだ。 「そうだね。5年ぐらい前かな。彼女浮気してたんだ。」 「それは……大変でしたね。」 私はその後なんと言葉を続けていいかわからず、ただビールを口に運んだ。彼は少し疲れた表情をして、指輪がはめられていたであろう指を無意識になぞっていた。 「これも自分がしたことの報いだったのかな。結婚生活も結局7年は続いたけど、その間もいろいろあってね。子供がいなかったことは幸いだったな。」 彼はそう言って私に向かってほほ笑んだ。詳しくは語らないが、彼の微笑みがその心境を語っているようだった。正直彼の境遇を気の毒に思う反面、私は内心ほら見ろと彼に対して思っていた。あんなに目をキラキラさせて、ずっと一緒にいるだなんて言っていた彼の結婚生活は、結局7年で終わってしまった。 ―私の方が正しかった。永遠なんてないじゃないか。 子供の私がそう主張する。でもなぜだろ。その顔は少し悲しそうだ。
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