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「永遠はなかったんですね。」
いつの間にか私はそんなことを口走っていた。
「何があっても乗り越えて見せる。ずっと一緒にいるんだって言っていたのに。」
私の声はどこか彼を非難するような響きがあった。それに気が付いているのかいないのか、彼はどこか遠くを見る様な目になった。
「そういえば、そんなことを思っていた時期もあったな。」
なんだ、それ。私はどこからか怒りが湧き上がるのを感じた。彼に裏切られたようなそんな気持ちがしていた。
「そういえば、君のご両親は元気にしてる?」
唐突に話題を変えた彼に、私は少し気持ちを持ち直し頷いた。
「二人とも元気にしてますよ。結局笹山さんが引っ越した後すぐに、離婚しちゃったんですけどね。」
原因は意見の不一致。ずっと一緒にいようと誓った相手でもいつかは心変わりするのだと、幼い私はその時初めて知った。だからこそ、なおさら迷いなく永遠を語った彼の姿が輝いて見えたのだ。彼は私の憧れだった。でも、現実はやっぱり違ったのだ。
「やっぱりそうなっちゃったか。大変だったね。」
「やっぱりって、知ってたんですか?」
「知ってたというか、そうなるだろうなって感じてたから。俺の親たちも離婚しててね。その離婚前の雰囲気に、君のご両親の様子がそっくりだったんだよ。」
「そうだったんですか。」
知らなかった。そういえば、私は彼について何も聞いたことがなかったかもしれない。
「あの時、夜の公園でご両親が探しに来るのを待っていた君をみかけて、なんだか放っておけなくてね。」
「え、何でそんなこと知ってるんですか?」
私は驚いて彼を見つめた。
「俺もそうだったからかな。」
彼はそう言ってグラスを口に運ぶ。
「よく親たちが喧嘩してるときに抜け出してた。それで俺がいないことに気が付いて迎えに来てくれることを待ってたよ。あまりにも君がその時の俺に重なって、口下手だから何も言えないけどせめて側にいてあげたいって思ったんだ。」
私はテーブルに置いたグラスを両手で包みながら、その水滴を親指でなぞった。
彼にはお見通しだったのだ、幼い私の気持ちなど。理解していてくれたのだ。胸がキュウと苦しくなった。少し泣きそうだ。
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