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「……ありがとうございました。」
私が呟やくと、彼は笑いながら首を振った。
「お礼を言うのは俺の方だよ。」
「え?」
「君があの時、必死になって彼女との関係を反対してくれたお陰で結婚しようって決めたんだから。」
私が不倫と聞いて、彼を止めようとしたあの時のことだ。
「あの……どういうことでしょうか?」
もし私の言葉が彼を結婚に導いたのなら、それはお礼を言われるようなことではないような気がする。むしろ、彼の苦しみの元凶になっていたのではないだろうか。
「君が言ってたでしょ。『ずっと一緒になんていられない。永遠なんてあるわけないんだ。』って。」
「確かに言いましたね。」
「すごく必死だったよね。俺、驚いたよ。」
彼はその時の光景を思い出したようにふふっと笑った。
私は当時のことを思い出して、少し恥ずかしくなった。何の事情も知らない子供が、よく威張ってそんなことが言えたものだ。
「でもね、その必死に否定する姿が、本当は望みの裏返しだったんじゃないかって感じたんだ。永遠なんてないって言いながら、本当は永遠が見たいって言ってる気がした。それで、だったら俺が見せてやるよって気持ちになってね。それで心が決まったんだ。彼女をずっと愛そうって。」
私は自分が微妙な顔になるのが分かった。それを見て、彼は笑う。
「君はほんとに素直だね。言いたいことが顔に出てるよ。」
「いえただ、笹山さんの話を聞いていると、それのどこがよかったんだろうって……。」
だって結局永遠はなかったんだから。
「俺もあの頃は、ずっと一緒にいることが大事なんだって思ってた。でもね、彼女と出会ってそして別れて気が付いたことがあるんだ。」
彼は私の目を捕らえた。その瞳は先ほどとは違って何かキラキラしているように見えた。いつかも見たあの目だった。
「彼女を心の底から愛していた。奪ってでも一緒にいたいと思うほど。俺は幸せだった。いろいろあったけど確かにあの瞬間は幸せだったんだ。それでよかったんだよ。」
でも、やっぱり終わりがないほうがいいじゃないか。傷ついたり、寂しくなったりそんな気持ちになんかなりたくない。
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