永遠などない

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「はじめまして、田島 永久子(たじま とわこ)と申します。初めてのことでいろいろと至らないこともあるかと思いますが、精一杯努力して参りますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします。」 緊張に体を強張らせながら頭を下げる。部屋中の視線が私に集中しているのを感じながら、努めて冷静な様子を装って頭を上げた。パチパチと控えめな拍手に、ホッとしながら何となしに視線を部屋の入り口に向けた。そこで思わず私は声を上げそうになった。あの人がいた。自分でも、どうしてあの人と気が付いたのか分からない。だが彼は記憶の中のあの人より少しくたびれた雰囲気をしていたが、線の細い体つきと、長い手足を持て余して入り口に寄りかかっている様子はあの当時のままだった。 「それでは新人の自己紹介も終わりましたので、既存の社員の皆さんは業務に入ってください。新人の皆さんは続けて今日の業務の説明に入ります。」 新人担当者の言葉に私はハッとして、注意をそちらに向ける。業務説明が終わった頃には、当然ながら入り口にあの人の影はすでになかった。
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