1人が本棚に入れています
本棚に追加
笹山 優希(ささやま ゆうき)。それがあの人の名前だった。当時小学4年生だった私は、両親と郊外の小規模団地に住んでいた。その団地の同じ階に越してきたのが彼だ。家族世帯ばかり住む中で、若く独身で一人暮らしの彼はとても浮いていた。加えて手足の長い長身に、今で言う無気力系と言われるような雰囲気の彼は、引っ越し当初ご近所の奥様方からかなり警戒されていたらしい。母親達が心配気に噂していたのを私は覚えている。だが、それも彼が見た目によらず社交的で面倒見のいい性格と分かるまでのこと。それにおそらくは、彼が務める大手企業の名前もかなり彼の好感度アップに貢献していたのだろう。近所の子供達からも好かれていたし、とにかく彼は意外とすぐにこの団地に馴染んでいった。私はと言うと、あまり外で活発に遊ぶほうではなかったため、他の子に混じって彼に遊んでもらった記憶は数えるほどしかない。彼のことも少しかっこいい近所のお兄さん程度にしか認識していなかった。だが、あることをきっかけに彼が私の中で『近所のお兄さん』から『友達』に昇格する事になる。
最初のコメントを投稿しよう!