永遠などない

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横目で様子を伺う私の視線に気が付いたのか、笹山はその眠そうな瞳でちらっと私を見た。それから、またごそごそと足元のビニール袋を漁る。 「はい、あげる。」 袋から顔を上げた笹山の手には、不機嫌そうな子供の顔が描かれたペットボトルのジュースが握られていた。私の気分にぴったりのジュースだ。私はずずっと差し出されたそれを思わず受け取った。 「……ありがとう。」 私はしぶしぶお礼の言葉を呟く。笹山はビールを飲みながら、んと小さく頷いた。一口飲んだジュースはシュワシュワと舌の上ではじけて、甘さが口の中に広がった。メロンソーダ味。おいしい。しばらく二人で無言で飲んだ。ふと笹山がおもむろに口を開いた。 「で、なんかあったの?」 口の中ではじけるメロンソーダの炭酸を味わっていた私は、そのシュワシュワにつられてなんとなく答えた。 「避難中なの。」 「避難中?何から?」 「親の喧嘩。うるさくてピリピリしててなんか嫌なの。だから避難中。」 「なるほど。でも親御さんは、君が夜に外に出ていて心配してるだろ?」 「そんなことないよ。喧嘩に夢中で私のことなんて忘れてるよ。いつものことだし。」 私はそう言いながら、手に持ったペットボトルの不機嫌な子供の顔を指でなぞった。 「そおか……?」 笹山は黙ってまたビールの缶に口をつける。私は溜息をついて、横目でじとっと笹山を見た。 「とわこ。」 「え?」 何を言われたのか分からなかったのだろう。笹山は間の抜けた顔を私に向けた。 「私の名前。君じゃないから。」 笹山は合点が行ったように、ああと呟いた。 「ごめん、ごめん。とわこちゃんか。」 「前にも教えたよ。」 私の視線に笹山は苦笑いを浮かべた。 「今度はちゃんと覚えておくよ。漢字はどう書く?」 「永久って字に子供の子。」 私は少し誇らしい気持ちで笹山に言った。まだ学校で習っていない字を知っていることが自慢だったのだ。そんな私の様子に笹山は口元を緩めてかすかに笑った。 「永久子、ちゃんね。俺の好きな字だ。」 「何で?」 「永久(とわ)っていうのは、終わりがないって意味だから。」 「ふーん。終わりがないのが好きなの?」 「そうだな。たとえば好きな人とずっと一緒にいられたら素敵だろ?」 私は少し考えてから、うんと頷いた。
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