第壱章 異世界召喚編

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 煙の無い廊下に出ると彼の体は輪郭まではっきりと見えるようになった。全身にまとった鎧はとても重そうで、しかし彼がつけていると自分にも装備できるのではないかと思ってしまうほどの安定感。見上げるほどではないにしても、少し高い身長。鎧の上からでもわかる、並の練習ではつかないようながっしりとした肉体。目は細く、大人っぽい印象を与えるが、これだけの情報がありながら、まだ青年らしい整った濃い顔立ち。  見てくれだけでは非の打ち所は無い。 「龍車を用意しろ。すぐに出発する」  男は部屋から出るとそばに控えていた従者に一言命令し、立ち去る従者には目もくれず歩いてゆく。 「私から出向いてやるからな!待っていろオリヴィア!!」  彼は大声で叫ぶと再び歩き出す。  王国へ出向く準備をするために。 3  倒れ込んだ俺には目もくれず、ラヴィは店内へと歩いていく。  助けてもらう側なのに「待って」とついていくのも男らしくないと思い、しばらくそのままでいようと決意する。(決意するほどの事でもないし、決意するならもっと大事な時がいいと思うけれど、それは棚に上げておく) 「床冷てぇ」  本来木の板なら冷たくなることはよほどの事じゃないとならないし、外の気温も自分にはちょうどいいので、冷たいはずはないのだが、気分で言ってみたくなった。  と、木のラウンジで惨めさを噛み締めていると、「ドドドドドド……」と大きな生き物の足音が床を伝って耳に届いてくる。  何事かと立ち上がるのと、全身を朱の鎧に包んだごつい巌のような男がイグアナを大きくしたような生き物に引かれた篭を止めるのはほぼ同時だった。  振り返って篭の方を見る。     
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