第1章

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 懐中電灯に照らしだされた玄関は、ホコリと土と落葉が積もっていた。すみには古い革靴がカビている。子供の落書きのある下駄箱の上には型の古い電話。カベと天井にはクモの巣がはっている。 「やっぱり気味悪いなあ」  タケムラが呟いた。 「そうか? そんなでもないと思うけど。ただ古い家ってだけで」  ちょっと怖い廃墟があると聞いて肝試しとシャレこんだ物の、俺にしてみれば正直期待はずれといった感じだった。幽霊が出るという噂らしいが、病院や学校と違ってどこにでもあるような民家だからか、不気味ではあるもののそんなに怖いという感じはしなかった。  俺は特に豪傑というわけではないし、小学校のときは子供会の肝試しで大泣きした物だけど。 「すげえな。怖くねえのかよ」  あきれたようにタケムラが言う。 「いや、そりゃ少しは気味悪いけどよ」  俺は、そっと家の中に入り込む。辺りは静かで、俺達の足音が大きく響く。舞い上がったほこりが、懐中電灯の光を受けて粉雪のように輝いた。 右手にあるフスマに手をかけてそっと開ける。ほこりっぽく、カビ臭い空気に、俺はくしゃみをしそうになった。 そこは居間のようだった。白っちゃけたベージュ色のカーペットに、色のあせたクッション。低いテーブルには、新聞やチラシがホコリと一緒に載っていた。天井の電気は割れている。どこかで虫が歩いているのだろう、カサカサと音がした。  ここには昔どんな人が住んでいたのだろう。そんな事を考えている時、影とは違う、黒い物がタタミに広がっているのに気づいた。こぼれた赤黒い液体が乾いたようなシミ。 血だ。  さすがに鼓動が激しくなった。 「おい、ナオユキどこだ!」  後でタケムラが呼んでいる。何やっているんだろう。玄関と居間の間にあるフスマは開けっ放しだ。いくら懐中電灯の明かりしかなくても、こっちの姿が見えない距離ではないはずなのに。 「こ、ここだよ。来てみろよ、すごいのがあるぞ」  返事をしたとき、視界の隅で何かが動く。 (幽霊?!)  慌てて懐中電灯をむけた。  オレンジ色の輪の中、クッションの上に中年の女性が立っていた。うつむいていて顔は見えない。  驚いてノドが詰まったようになり、悲鳴もでない。逃げようとしたが、足がもつれて尻餅をついた。でも、幸いキレイな座布団の上が下にあったから、痛い思いはしないですんだ。
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