4人が本棚に入れています
本棚に追加
一.
彩楸学園では、梅雨の時期に水無月祭が行われる。
梅雨のじめじめ鬱々とした気分を吹き飛ばしましょうという意味合いの催しで、その内容は仮装行列である。
全学年各クラス仮装のテーマは自由だが、選択ミスをするとこのじめじめの中、着ぐるみを着て校舎内を練り歩かねばならない。この高湿度のくそ暑い中を。
仮装行列の終点は体育館だったが、矢㮈は到着後に友達の用事に少し付き合うことになり、クラスの写真撮影大会そっちのけで別行動をとっていた。偶然というか必然にもその「用事」で同じクラスの高瀬と一緒になり、二人は急いで教室に戻るところだった。
矢㮈と高瀬は教室に戻る手前の渡り廊下で同じクラスの千佳に見つかった。
「あ、発見! てか何で笠木も一緒なのよ!」
――ああ、これは何だか面倒臭い。普段決して仲が良いとはいえない高瀬と一緒にいるところを見つかってしまって、矢㮈は思わず天を仰いだ。
答えあぐねている矢奈に構わず、高瀬が口を挟んだ。
「途中で会って、この着ぐるみ脱ぐの手伝ってもらっただけだ」
確かに全て事実ではある。矢㮈は不覚にも彼の頭の回転の良さに感心してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!