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瓶の中の少女は、両手で顔を覆って泣いているようだった。その様子は痛々しく、こっちの胸がつぶれそうだ。
「おい」
人差し指で瓶をノックする。しかし、少女に反応はない。
「そこで何してる!」
光が部屋にあふれ、羽野の目がくらんだ。
寝間着姿の店主が、手にゴルフクラブを持って立っていた。
羽野は、少女の瓶を持って窓に向かった。
「待て!」
羽野の肩を店主の手がつかんで引き戻す。その勢いでガラス瓶が落ちた。分厚い瓶は割れなかったものの、ヒビが入った。
ゴルフクラブが頭に振り下ろされ、羽野の意識は遠のいていった。
ひどく寒くて、羽野は目を覚ました。反射的に立ち上がろうとして、動けないのに気づく。体がロープでぐるぐる巻きにされていた。状況を把握しようと、羽野はあちこちに視線を走らせた。
キャンプに使うような、ランタン型の電灯が光っている。壁紙の剥がれた壁に、雑草の生えた床。どうやら廃墟になったアパートに転がされているようだった。
視界の隅にキラリと何かが光った。
それが円筒形のガラス瓶だと気付き、羽野は這い寄っていく。
少女、あの少女は無事か? 必死で中身を覗き込む。
だが、中に入っていたのは似ても似つかない寝間着姿の男だった。手と足が折れているのか、底に這いつくばっている。輪郭が分からないほど腫れ上がり、血で真っ赤に塗られた顔。そしてナイフで体中をあちこち刺されたのか、寝間着に血のシミがいくつもついている。低い背とネズミを思わせる歯で分かる。店主だった。
「これは……」
「店主です」
落ち着いた女性の声がする。いつのまにか、パンツスーツの女性が立っていた。その後に、同じくスーツの男を従えていた。
女性は淡々と続けた。
「ただのホログラムとお思いでしたか? この瓶には人の魂が入っているのです」
すぐには何を言っているのか理解できず、羽野はきょとんとした顔をした。
「強い未練や恨みを持って死んだ者の魂は、いつまでもこの世に残り続ける。つまり、いわゆる幽霊ですね。私達はそれを瓶に捕え、観賞用のオブジェにすることに成功したのです」
「か、カンショウ用……?」
「あなたが気に入っていた瓶には、病死した女の子の霊が入っていたのですよ。やりたいこともやれず、若くして死ななければならない無念が彼女を幽霊にした。ああいうキレイな娘や女の幽霊は需要があるのです」
青白い少女の顔が羽野の頭に浮かんだ。
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