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「で、本当にダイエットできるのかい?」
友人Aは僕の研究所に来るなりそう言った。
「ああ、実に画期的な方法でね」
色々な機械を傷めないよう埃を吸着する特殊な金属製の壁の間を通って、僕はAを研究室に案内した。
少しの距離を歩いただけだったのに、100キロを越えるAは大変そうだった。Aは何度もダイエットに失敗している。運動するのが嫌いな彼は、なんとか食事でやせようとしていた。リンゴダイエットだのレタスダイエットだのと試していたが、すべてダメだった。そういったわけで、僕が一肌脱ごうということになったわけ。
実験室の真ん中には、小さなテーブルと、金属性の箱のようなイスが置かれている。
僕がすすめるまま、Αはそのイスに座った。ぴったりしたシャツのせいで段々になって
いる腹の肉が見えておもしろい。
「で、その究極のダイエットフードってのはどれだ?」
「これだよ!」
僕が壁のボタンを押すと、テーブルに小さな穴が開いた。そこから皿に乗った肉がせり上がってきた。脂身がたっぷりあるΑ好みの肉だ。
「おお、ステーキ! ダイエット食品ってのは味気なくてまずいのが多いけれど、これはどうかな」
Αはニコニコしながらナイフとフォークを手に取った。そして嬉々としてステーキを食べ始めた。
「うん、うまい! それにしても、お前は物理が専門じゃなかったっけ。それがいつから栄養士になったんだ?」
「いや、専門は物理のまんまだよ」
「へえ」
「実は、転送の実験をしていたんだ」
Αは食べるのに夢中でろくに僕の話を聞いていないようだった。
「そのイスは、転送装置なっているんだ。そこに乗せたもの全部、あるいは一部だけでも別の場所に飛ばすことができる」
ぴたりとΑは手を止めた。
「そのテーブルは転送された物を焼いて皿に乗せて出すようになっている。どうだい、少し腹の肉が減ったんじゃないか? これぞ究極のダイエットフードだろ?」
失礼にも、Αは食べた物を吐き始めた。
それから、Αはなぜか菜食主義者になった。正確に言うなら肉が食べられなくなったのだ。まあ、結果としてやせたのだから、いいことをしたと思う。
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