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「文香……文香……」
うわ言のように、一紫は彼女の名前を呼んだ。
「一紫さん……」
求められている実感は、さらに女の心を喜びで満たした。
やがて。
二人は相手の名前を呼びながら、同時に達して、果てた。
静まりかえった部屋で、文香は泣きながら目を開き、男の方に向き直った。
一紫はその体を、無言で抱き締めた。
そのまましばらく、二人は動かずにいた。
「一紫さん……」
「ん?」
文香は顔を上げ、濡れた顔のまま、呟くように言った。
「愛してます……」
「……うん。俺も、愛してるよ……」
望む答えを得て、文香は男の胸に甘えるように頬をすり寄せて、言った。
「前に、言いましたよね。私は、変わってるって……」
「え? ああ……」
「でも、実は意外と、平凡な女かもしれません……」
「え……」
意外そうな男の顔を見て、文香は恥ずかしそうに呟いた。
「一紫さん……、私と、一緒に暮らしませんか……?」
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