第八章【子ゆえの闇】

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    ◇  思いがけず、母から結婚の許しが出たことで、文香はこれまでの溝を埋めるように、一紫との出会いから、彼がどれほど素晴らしい人で、どれほど自分を大切にしてくれているかを、切々と訴えた。  初めは半信半疑だった葉子も、一紫の処女作が映画化されること、彼が再び本名で文壇復帰することを聞いて、憂い顔を一変させた。 「まあ、じゃあ、これから彼の作家としての知名度は、ぐっと上がるわけなのね?」 「そうだよ。だからちゃんと、これからも作家として食べていけるはずだから、その点は安心していいと思う」  すっかり温くなった紅茶を飲みながら、文香は「それと……」と呟いた。 「つい最近、お父様も見つかったの」 「えっ……」 「一紫さんのお父さんはアメリカ人で、一紫さんが生まれる前に帰国していて、息子が日本にいることを知らなかったそうなの。今回、手術を受けるために日本へ来た際、一紫さんのお母さんの行方を調べていて、そこで初めて恋人が亡くなっていて、その恋人が自分の子供を産んでいたことを知ったの」 「まぁ……」  思いがけない話に、葉子は絶句した。 「私もお会いしたけれど、すごく素敵な方だったよ。顔立ちも一紫さんに良く似ていたの」 「そう……。弥生や水香は、このことを知っているの?」 「知らないよ。教えていないもの。ただそのお父さんも、私達の結婚式に出席してくれる予定だから、水香はその時に会えるはず」 「そうなの……、それはぜひ、私も一度お会いしたいわ」  葉子の母親らしい発言に、文香は嬉しそうに「本当?」と声を上げた。 「ええ。あなた達が結婚すれば、縁戚関係になるんですもの。ちゃんとご挨拶はしておかないと」  契約の件があり、ローガンの正体を明かせないことをもどかしく思いながら、文香は「ありがとう、お母さん」と礼を言った。  そんな娘を見つめて、葉子も穏やかな笑みを浮かべた。  それはどう見ても、我が子を深く愛する母親の笑顔で、一紫はかつて母に見たその面影を、葉子の笑みに見た気がした。
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