第九章【落花流水】

3/47
3548人が本棚に入れています
本棚に追加
/540ページ
 昨日から恋人の様子がおかしいことは、文香も薄々気付いていた。 「一紫さん……?」  彼女は不思議そうに男の顔を覗き込んだ。  自分を真っ直ぐに見つめる澄んだ瞳を見つめ返し、一紫は「いや……」と呟いた。 「とりあえず、お母さんの許しも得たんだ。俺達のこれからの目標は、とにかく幸せになることだ。そうだろう?」 「ええ、そうですね。……でも、夢みたい。もうすぐ一紫さんと結婚出来るなんて……」 「夢にしないで。俺は君のドレス姿を見るのを凄く楽しみにしているんだから」  一紫は笑いながら文香の頬に触れ、その唇にそっとキスをした。  ただそれだけの触れ合いで、文香は何を気にしていたのかも忘れ、心底嬉しそうに微笑んだ。
/540ページ

最初のコメントを投稿しよう!