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文香も満更でもない笑顔で、「お陰様で」と答えた。
「まあ、有名な作家さんで、これだけのイイ男なんですもんねぇ。そりゃ葉子さんも、認めざるを得ないんじゃないですか?」
「どうして一紫さんが作家って知ってるの」
文香が驚いて訪ねると、喬子は笑顔で「弥生さんが言ってました。文香の彼は有名な作家だって。N賞も取ったんでしょう?」と言った。
文香は慌てて、「取ってないよ。候補になったの。だけどあんまり、そういうことは吹聴しないで。彼、目立つの嫌いだから……」と相手を窘めた。
喬子は邪気のない顔で、「あら、そうなんですかぁ。でもまあ、どちらにしろ凄いことですよ、プロの作家なんて。私なんて、小学校の読書感想文で原稿用紙2枚書くのすら大変でしたからねぇ」と、良く分からない喩えを出して来た。
一紫は笑いながら、「本当に彼女の言う通り、大したものではありませんよ」と言った。
「ただお母さんに認めていただけたのは、幸運でした。向井さんにも、これから仲良くしていただけると幸いです。よろしくお願いします」
謙虚なその言葉と態度に、喬子はますます感心した顔になり、「文香さん、本当にイイ男を掴まえましたねぇ。三姉妹の中でダントツの引きですよ」とまた下世話な発言をした。
文香は苦笑したが、その喬子の発言はしかし、事実であるだけに厄介だった。
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