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彼女の返事を聞いて、和史はニッコリと笑った。
「そうか……。ありがとう。これまで、自分のこの目立つ容姿は好きじゃなかったんだが、君に褒められると、少し好きになれそうだ」
「それは……何よりです」
さっきとはまるで立場が逆転し、文香は小さな声で答えた。
自然と目線は足元に落ち、今日はもうまともに、男の顔を見られる気がしなかった。
「じゃあ、入って来る」
「あ、はい……」
その言葉を合図に、文香は脱衣所を出た。
薄い扉の向こうで、和史が服を脱いで、浴室に入る音がした。
気がつくと、彼女は右手で胸を押さえていた。
これまで経験したことがないほど、心臓がドキドキと激しく強く、鳴っている。
「……何だろ、これ」
これまで一度も、異性に対してときめきなど感じたことのない文香は、自分の胸の動悸の理由が分からず、首を傾げた。
ただ動悸が収まると、今度は無性に、体の奥が疼いた。
「……このところ、Hしてなかったから。田中さんの裸を見て、ムラムラ来たのかなぁ……」
ずっと若い海斗にも引けを取らない、和史の鍛えられた体を思い浮かべ、文香は一人、呟いた。
「そろそろ一度、海斗と会おうかな……」
この時の彼女はまだ、気付いていなかった。
自分の心の変化にも、自身を取り巻く世界が、大きく変わろうとしていることにも……。
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