第二章【恋は思案の外】

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 そこには若干のヤキモチも含まれていたが、文香は気付かないまま、「だって……」と笑った。 「あの方は、和史さんの大事な仕事関係の方でしょう。そういう方には、出来るだけ良い印象を与えたいじゃないですか。それに親しくなっておけば、こちらに来られた際、気軽にうちへも寄っていただけて、今日みたいに一緒にお食事も取れるし……」  意外なその言葉に、和史はびっくりして動きを止めた。 「君は……、俺が思う以上に、賢い女性だな……」 「今までは馬鹿だと思っていたんですか?」 「いや、馬鹿と思ったことはない。ただ、男関係に関してかなり飛んでいるから、男の前ではいつもああなのかと……」  そこまで言いかけ、和史は慌てて口を閉じた。  今のは明らかに、相手を侮蔑した発言だと思った。  しかし文香は気を悪くするでもなく、「それは偏見ですよ」と言った。 「男なら誰でも愛想良くするわけじゃありません。むしろ、私は無愛想な女です。歴代の彼氏は皆、向こうからのアプローチで付き合い始めた相手ばかりだし、今までは基本、来る者拒まず、去る者追わずでやって来たんです」 「…………」 「言っておきますが、私が告白した相手は、和史さんが初めてです」 「そ、そうか……」 「そうです。それに、自分なりの道理は通してます。付き合う相手は一人で、二股をかけたことはないし、浮気もありません。まあ、海斗と付き合う前に、一夜限りの関係を持ったりしましたけど。彼と付き合い始めてからは、彼としか寝ていません」 「そうなのか?」 「そうです」  胸を張って答える相手を、和史はじっと見つめた。 「……だけど昨日、俺に好きだと言ったその足で、他の男に会いに行ったじゃないか」  思わず責める口調になって、和史はまた自分が失言したことに気付いた。  ―― 何を言っているんだ、俺はっ。こんなの、ただの醜い嫉妬じゃないか……!  けれどやはり、文香の表情は変わらない。  彼女は平然と、「あれは、単にしたかったんです」と答えた。 「えっ……」
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