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sideO
相原智之という名の友人がいた。彼は、1日に5回、人に親切にすることをポリシーとしているような、優しい男だった。普段はあまり喋らず、聞き手に回ることも多かった相原だが、俺は、酒が入ると饒舌になり、自分のこととかをなんでも話してしまうような彼の姿を知っていた。
黒髪が印象的で、女子にモテそうな雰囲気をしているのに何故かモテないところなんかが、可愛らしくもあった。
「思えばさ、俺たちも長い付き合いだよな」
不意に、相原がそう切り出してきたことがあった。
相原の部屋で、社会に出たばっかりの、金も、もちろん地位もない人間に相応しい、狭くてボロいアパートだった。それでも俺達はそこでふたりで飲むのが好きで、何度も集まっては他愛ない話を繰り返していた。
どうしたんだ急に、なんて思いながらも、適当に返したことを覚えている。
確かその時はまだ、あいつの秘密なんて知らなかった。
「中学で知り合って?それからだろ。高卒同士だし、住むところも近いし」
「そうだな」
相原は側に転がってた新品のタバコをいじりながら言った。ぺりりと器用にビニールを剥く様子は、何度見ても飽きない。一種の絵画のようだ。
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