君の窓

1/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

君の窓

僕は今、静まり返った墓地に来ている。 あたりに街灯などない。 真っ黒い墨を流し込んだ水面のように闇がよどむ中、 ぽつぽつと四角い死の証が点在する。 生きていた証を刻んだ、死のモニュメント。 僕はある墓の前で足を止めた。 僕は墓の石段を上がり、その死の証の前にひざまずいた。 刻んだ生の証を指でなぞる。 指を通して君の感覚が、蘇りはしないかという妄想にかられたけど、指先からは 冷たい死しか感じられなかった。 僕はあきらめの悪い男だ。 納骨堂の石をずらし、僕は彼女のお骨を胸に抱いた。 許されることなら僕は、彼女の形を永遠に残しておきたかった。 そう、どこか遠い外国の精巧なミイラのように。 しかし、日本の今の法律はそれを許してはくれない。 彼女の不在が僕を八つ裂きにした。 バラバラの僕を拾い集めてみたが、僕はそんな生活に疲れてしまった。 死のうと思ったのだ。 もう僕はこれ以上僕の形を保つ事はできない。 僕は鴨居の上にあいた欄間の隙間にロープをかけ、輪にした。 そして、あとは首をそこにかけて、椅子を蹴るだけ。 僕は意を決した。ふと、上を見ると天井に穴が開いていた。     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!