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ドアをあけたとたんに、金切声が聞こえてきた。
「もう! なんでぇー。ああ、これも、これも、これも。みんな、シャケちゃん。シャケちゃん。シャケちゃんばっかりぃー!
わたしが見てほしいのは、いくちゃんなのに!」
拓人は、かるい頭痛をおぼえた。
古都子が暴走し始めてる。
やはり、こんなことになったか。やはり……。
「ことさん。冷静にーー」
話しかけるも、古都子には聞こえていない。
「そうだ! シャケちゃんが写ってなきゃいいのよね。シャケちゃんが、いっつも、いくちゃんに、ひっついてるから。ごめんね。シャケちゃん。ちょっと離れててね」
古都子は郁のそばで、まったりしているシャケを、ヒョイっと抱きあげる。
とたんに、シャケは、あばれだした。
「にいっ。にーっ。ニーッ!」
「ああっ、ちょっとのあいだ。写真とるあいだだけだから。シャケちゃん! いい子にして!」
「にぃ……にぃ……」
うるんだような切ない目で、シャケは郁を見つめる。
シャケと郁のきずなは深いのだ。
シャケをひろってきた当初、一日中、ついて世話をしていたのが郁だからだろう。
あのときは、おどろいたものだ。
それまで、まったく無表情だった郁が、笑うようになったのだから。
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