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シャケが元気になるたびに、笑顔を見せた。
嬉しかった。
この子が大人になるまで、ずっと、この笑顔を守らなければと思った。
「古都子ーー」
拓人が止めようとしたときだ。
郁が立ちあがった。
ぶつかるように古都子に向かっていき、シャケをうばいとった。
そのまま、自分の部屋へ走っていく。
「ああっ、待ってーーいくちゃん!」
あわてて、古都子が追っていく。
すると、部屋の前で、郁がふりむいた。
拓人は、ギョッとした。
郁が怒ってる。
こんな表情、見たこともない。
「……ほっといて」
郁は部屋に、とびこんだ。
なかから、にぃにぃと、シャケの鳴き声が聞こえる。
「いくちゃん……」
郁の部屋に向かって手を伸ばしながら、古都子は、こうちょくしている。その瞳から、ぽろぽろ涙がこぼれてきた。
「古都子。郁にとってシャケは兄弟同然なんだ。さっきのは、よくないね」
古都子は子どもみたいに、しょんぼりする。
「だって、だって……」
だって、いくちゃんをアイドルにしたいんだもんーーとでも言うのかと思った。
「だって、いくちゃん。笑うようになったんだよ? 前は、ぜんぜん、笑ってくれなかったのに。うれしかったんだもん!みんなに見てほしいんだもーん!」
拓人は笑った。
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