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「おかえりなさーい。パパ。お仕事、おつかれさま! ねえねえ、聞いて。わたしね。SNS、始めてみたのよ。ほら、カワイイでしょ? けっこう、いいねついたよー!」
倭倉拓人(わそうたくと)は、はしゃぐ妻の古都子と、息子の郁を見くらべた。
息子の郁は幼少期から言葉数少なく、表情の薄い子どもだった。それは、十さいになった今でも、あまり変わらない。
ソファーでシャケとじゃれてるようすからは、昨日までと変わったところは見受けられない。
心配ないようだ。
古都子は現役大学生のとき、講師の拓人と結婚した。そのため、世間知らずなところがある。たまに無謀なことをして、家族をビックリさせる。
そして、そんなとき、たいてい犠牲になるのは息子の郁だ。自分の考えをうまく主張できない郁は、古都子に押しきられてしまうことが多々ある。
息子の将来が案じられてならない。
しかし、今のところ、とくに問題はなさそうだ。
いちおう、拓人は息子に言っておいた。
「郁。こまったことがあれば、お父さんに言うんだぞ」
「…………うん」
答えが返ってきたことで安心した。
「ねえ、パパ。ごはん、あっためるから、ちょっと待ってね」
古都子に言われて、拓人の関心は息子からそれた。
「ああ。シャワーあびてくる」
「今日は、ビールいる?」
「いや。学生たちの卒論の下書き、読まなきゃならないからね。とうぶん、忙しいよ」
「わかったぁ」
いつもの日常風景ーー
拓人は、そう思っていた。
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