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ガタンという、玄関のドアの閉まる音が響いた。
それはきっと私へのあてつけだ。
二月に入った寒い頃、「離婚したから」って言って、実家へ戻ってきた私。
甲野紗月(こうのさつき)、二十九歳。
あ、もう日高紗月だったっけ。
出戻ってからもう三日目。
朝日と共に起き、畑へ出かける両親となるべく顔を合わせないようにしていた。
だから、私は二人が出かけると起きだす。
リビングのテレビをつけて、ニュースを見ながら冷めた味噌汁を温め直していた。
今日は目玉焼きにしようとフライパンを手にした。
背中でニュースをきいていた。
トップニュースはどこかでこんな事故があったとか、政治家がとんでもない発言をしたとか言っている。
別にすごく興味があるわけじゃないけど、一応は新聞の見出し程度、知っている方がいいと思うから。
今日の味噌汁は、ナスとネギの実だくさんだった。
私の大好きな具の一つ。
母は、口では小言ばかり言うけどちゃんと私の分まで作り、放置しておいてくれる。
テーブルに書き置きがあった。
【仕事探しに出掛けるなら、ついでに夕飯のおかずを買ってきて】
苦笑する。
別に出かける用事がなくても買ってきてって言われれば行くのに。
それは実家でうだうだしていないで、仕事を見つけて一人立ちしろっていうメッセージだとも受け止めていた。
わかってる。
そんなこと。
この私が一番わかってるんだってばっ。
でも、・・・・まだ、心がつらすぎた。
家じゅうの窓を開けて、掃除をする。
埃が家の中を浮遊するのがいやで、寒くても窓を全開にして掃除機をかけていた。
外からは近所の子供たちが元気に登校する声が聞えた。
二階の私の部屋から、念入りに掃除をするつもりだった。
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