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その掃除機の音で私の意識は過去へと戻っていった。
私と元夫の甲野航平は長い同棲を経て、真夏の一番暑い時に籍を入れた。
なぜって、それはできちゃったからだ。
それに、そろそろいいんじゃないかなって思っていた頃でもあった。
だから、私の妊娠確認と共に籍を入れた。
親たちは喜んだ。
今まで結婚に関する質問をされても、「あ~」とか「う~」くらいしか答えなかったから、もう諦めていたらしい。
初めは私もできちゃったから、仕方がないって思ってた。
けど、籍を入れてから一日一日と結婚したんだという喜びがふつふつと湧いてきた。
こんな私が妻で、そして母親になるってことが嬉しく思えていた。
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階下で電話がなっていた。我に返る。
ちょうど階段にも掃除機をかけようと思っていたのに。
スイッチを切って、すぐに下へ降りていった。
二階にも電話の子機を置くべきだろうなんてことも考えた。
でも、私は実家に長居はしない、しちゃいけないんだって思いなおした。
リビングの電話をとる。
息を整え、余所行きの声で「はい、日高です」と応対した。
『こちら、東都観光の皆川と申します。いつもお世話になっております。峰子さんはいらっしゃいますでしょうか』
峰子とは母親のこと。
母に東都観光の人が何の用事だろう。
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