私が離婚届を置いて出てきた理由

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「こんなに寒い時期だから春の香りがするいちごがいいのにね」  私は売れ残ったいちごの箱を眺めていた。 「でも、寒いってことも大事なんだよ。いちごを甘くしてくれるからね」 「えっ、どういうこと?」  母が得意げに言った。 「この地区は甲府中心部よりも気温が低くなる。それだけいちごのハウス内の温度調節が大変だけど、だから、いちごが甘くなるの」 「えっ、そうなの?」  先日、テレビでは冷蔵したごぼうが甘くなるっていうのは見た。  それと同じ現象なのかも。 「その証拠に、まだ赤くなっていないいちごも甘いんだから」 「まさか」 「嘘だと思ったら、食べてみればいい」  私は半信半疑だった。  けど、そう母に勧められて、いちごのハウスに入り、まだ白いいちごをかじってみた。  もちろん、完熟のいちごに比べると甘味は薄いが、確かに甘い。  全然酸っぱくはなかった。  目を閉じて食べていたらわからないかもしれない。  すごい発見だった。 「ねっ、この地区のいちごが甘いっていう評判、うなづけるでしょう」 「うん、すごい」  今更ながら、そう言っていた。 「本当にお母さんたち、プロなんだね」 「あたりまえだよ。何年もこのいちごに食べさせてもらってる。いちごのことならなんでも知らないとね」  母の運転する軽トラックで家へ帰った。  うちの庭に、見覚えのある車が止まっていた。
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