164人が本棚に入れています
本棚に追加
午後7時…。
今日も特に問題なし。
“一杯やってこーよ!”と雅文が騒ぐのを聞きながら、コートを羽織る。
「おでん!日本酒!」
「おれは焼き鳥!ビール!ソノは?」
ビールは寒いだろ…と、心の中で突っ込んで、
「オレは………」
と食べたいものを考えていると、
コンコン……
事務所のドアをノックする音で思考がピタリと停止した。
「あーい」
多田野さんが気の抜けた返事をしてドアを開けると、
「こんばんは…」
寒そうに肩をすぼめた彼女がそこに立っていた。
「久しぶりー!元気だったー?」
「ふふ…元気でしたよ!って、会わなかったのはたった1ヶ月じゃないですか!」
「たった1ヶ月じゃないんだよねー…あいつの場合」
そう。
貴女にとっては“たったの1ヶ月”だったとしても、オレには何十年にも思えるくらい。
右…左…右…左…と意識して足を動かさないと、ちゃんと前に進めない。
「もう帰るところでしたか?」
彼女がオレを見て声をかけているんだけど、首を横に振るので精一杯。
「今日は…どう…したの?」
中に入りなよ、とか寒いのにわざわざ来てくれてありがとう、とか
会いたかったよ、とか
気の効いた言葉も出てこないほどに心臓が激しく高鳴る。
「お仕事の依頼…を…しに来ました」
最初のコメントを投稿しよう!