その影は魚のように泳いでいた…。

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…最近、魚影を見る。 しかし、「見る」と言っても水の中ではない。 真夏の炎天下、焼けたアスファルトの中を一匹の魚の影が泳いで行くのだ。 それは最初、ただの影かと思った。 スクランブルの交差点を歩く、人の影の見間違い。 しかし、それが動く人影からするりと独立し、やがて魚のように尾ひれを振ってゆうゆうと泳ぎ出す様を見て、私はそれが生き物ではないかと感じとった。そして魚のようなものは白線の下をくぐり、信号機の側を通り抜け、さらにその先…一人じっとたたずむ男の影へともぐりこむ。 …その男の方も妙だった。 この暑いさなか、流れる汗もそのままに、男は大きく目を見開きながらそのビルをにらみつけている。手に持った鞄は男にはとても似合わない女物のブランドバッグであり、そこから何か金属製の柄のようなものがはみでているのも気になった。 そして、次の瞬間、ビルから一人の女が出て来ると、男はバッグから包丁を取り出して何事かわめきながら走って行った。 怒号、悲鳴。 だが、男はすぐに周囲の人々に押さえつけられ、やがて警察に連行された。 あとで知ったニュースでは男はストーカーであり女性のことを執拗につけ狙っていたということであった…。 次に見たのは商店街であった。 あの日もまたひどく蒸し暑く、周囲はうだるような熱気に包まれていた。 そうしてふと顔をあげたとき…またあの魚影を見た。 今度は商店街の前に広がる道沿いに、走る車のあいだを縫うようにしてそれは泳いでいた。 しかも、それはかなり大きかった。一抱えほどもある巨大な魚の影、それが一台のワゴン車の中に身を隠した瞬間、車は突如として道をそれはじめた。 …そこから先は、まさに悪夢であった。 逃げ惑う人々、商店街に入り込んだワゴン車。 そうして次々とはねられる人の群れ…。 運転手の突然の心筋梗塞によって起こったその事件は、数日のあいだ新聞やニュースをさわがせ続けた…。 そうして今、私は電車の中にいる。 あの魚影を見るのが恐ろしくて仕事をやめたのだ。 だが、都会から逃れられるのなら、あの魚影から逃れられるのならば安いものだろう。 そうして、田舎へと帰る電車の窓からふと視線をうつし、私の顔は凍り付いた。 黒い影、アスファルトを泳ぐ、無数の影…。 そう、そこには、自分の村からこちらへとやってくる大量の魚群の影が見えていた…!
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