その森に入った人間は二度と出てこれなくなるらしい…。

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
…森から出られない。 洗面所、くしけずると髪から小枝が落ちる。 冷蔵庫、ドアを開けるとむっとするような草の匂いが立ちこめる。 洗濯物は葉と苔にまみれ、床を歩くと衣擦れの代わりに木の葉の擦れる音がする。 眠れない日々、必死に寝ないようにする毎日…。 そう、あんなところ…いくんじゃなかった。 夢を見れば思い出す。 先週行った森の風景。 昼とも夜ともつかない暗さ、むっとするような熱気、むせかえるほどの草の匂い…。 噂で聞いた心霊スポット。 人が何人も飲まれているという森。 そう、私達は遊び半分でそこに来ていた。 はじめにいなくなったのは友人のお兄さん。 車の運転手だったからみんなで必死に探したら、なぜか木の枝で首を吊っていた。 次にいなくなったのは私の妹。 いつのまにか木のうろに溜まった水に顔を浸して死んでいた。 最後に残った友人は私が二人を殺したとわめいて逃げて、飛び出た枝に足をひっかけて、朽ちてささくれだらけになった幹の中に顔を突っ込み、それきりいっさい動かなくなった。 そうして私は逃げ出した。 どこをどう走ったのかはわからない。 ともかく県道まで自力で走り、偶然通った車に拾われて自宅まで逃げ帰った。 携帯は森の中で落として来た。 両親には未だに怖くて電話もできない。 外に出たくない、いや、出られない。 なぜなら私は…。 …そうして気がつくと、私は暗い森の中を彷徨っていた。 もはやこれは夢ではない、土にまみれたジーンズとぼろぼろのキャミソールがそれを証明している…そう、結局私は逃げられなかったのだ。この森に、この木々に…。 むっとするような草の匂いが周囲に満ちる。 私は疲れ果て、一本の木の側に腰掛けた。 そのとき、ぽとりと何かが落ちた。 見れば、それは一本の小枝。 家の夢を見たときに見た…くしけずった髪から落ちた小枝。 それをつまみ、目の前にかざしたとき私はとうとつに理解する。 …そうか、この森の木々たちは人を選ぶのだ。 自分の好む人間を、自分たちが欲する人間を選ぶのだ。 私の足はもう動かない。 …正直、疲れきっていた。 眠たくて仕方が無い。 私は木の根元に座り込むと胎児のように体を丸め眠る事にした。 その頭上からぱらぱらと小枝が落ちる、まるで私を覆い隠すかのように。 そうして落ちてくる。枝が、ばらばらと、いくつも…。 そうしてひときわ大きな枝が頭上に落ちて来た時、私の意識は地へと沈んだ…。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!