26章 密会

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  チャリ…と金具の擦れる音がしていた。 ザイードの手首に嵌められた鉄枷を吊る鎖が身動きする度に音を立てる。 その鎖は牢の鉄格子の高い位置から両手を吊り上げるようにザイードの身を拘束していた。 冷たく重い空気が漂う── 湿っぽい土の臭い。それは恐らく格子牢の錆びた鉄の臭いだろう。 ザイードはその中にある一番奥の牢に容れられ手足を鎖に繋がれていた。 座ることも許されず、腕をずっと高く上げた状態が肩に負担を掛ける。 辛い体勢に体力は削られザイードは首を項垂れて目の前の鉄格子にくたりと頭を預けていた。 現在の警察署から少し離れた旧本署。閉鎖された昔の警察署本部の錆びれた地下牢に囚われたザイードの表情には疲労が見え始めている── 「………」 未だ目隠しをされたまま、ザイードは頭を鉄の格子に寄り掛からせて黒い視界の中、遠くを見つめた。 愛美は無事に出られたのだろうか── それがとても気掛かりだ。 愛美が無事ならそれでいい── それで…… 静かな古い牢で人の気配は全くない。看守も見張りもなく灯りのない暗い中、ザイードは愛美の無事を切実に祈っていた。
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