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話してしまったら父を、自分を怨んでしまいそうだったから。
「お母さんは重度の鬱病だったの。でもお父さんは仕事が忙しくて話も聞いてあげられなくて……幼かった私は知っていたはずなのに……1番言ってはいけない言葉を言ってしまった……」
“どうしちゃったの?”
“お外に行きたいよ”
“がんばって!”
「……私が……お母さんを殺した……殺したんだ……」
押し寄せる罪悪感から逃げたくて、カウンセラーになる道を選んだ。
1人でも多くの人を救えば、私も救われる――と。
「私ひとりじゃ謝りに行くの怖いから、さ」
回した腕に柚留木くんの手が触れた。
「……いいよ」
その時、中庭のステージから光の柱が空へと幾筋も伸びた。
ここまで拍手の音と振動が空気を伝ってくる。
柚留木絢香のステージが始まったのだ。
『司。それに菜ノ香ちゃん。そこで聴いていて』
マイクを通した絢香さんの声が響く。
距離がある為表情は見えないが、ここに私たちがいることを分かっているみたいだった。
「……嫌だ……聴きたくない……見たくない……」
震える柚留木くんを変わらず抱きしめる。
落ちるなら一緒だ。
ポ……ン――
ピアノの音が弾けた。
それは、誰もが知っている曲だった。
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