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話は戻って現代、同人誌をよく知らない一郎に向けて葵は一冊の本を彼に手渡す。メカクレ少女と銀髪眼鏡の男性の恋愛を描いた全年齢向けの恋愛漫画である。
「昔店長が書いた本なんだって。結構面白いから読んでみるといいよ」
「言われてみるとこのヒロイン、店長に似てますね。自分をモデルに描くって恥ずかしくないのかな?」
「そう思うのなら直接店長に言ってみなさいよ。どうなっても知らないよ」
「そりゃあないですよ」
「あと、その本は持ち帰って読みなさい。店長にはわたしから言っておくから。次のシフトの時に感想を聞かせてもらうわ」
「薄いし、ここでササッと読むんじゃ……」
「それじゃあ仕事にならないじゃない。そんなんだからイチローくんはカノジョが出来ないのよ」
「関係ないじゃないですか」
葵はこの同人誌には思い入れがあった。
小学生の頃、まだこの近くに住んでいた彼女は、この店で前日談に当たるペーパー本と出会っていたからだ。
気まぐれで声をかけたお姉さんのお節介以来、田舎に引っ越して環境が変わったのもあって、あの日の少女はすっかり漫画にドハマリしていた。
オタクや腐女子と言うほどでは無いにしても、たまに下手なりに筆を執ったりノートに黒歴史を綴ったりするくらいには創作活動に慣れ親しんでいた。
あの日の出会いを葵は恥ずかしがって読子に切り出せていないが、大学進学を機にこの街に帰ってきた葵にとって、あの日もらったノートとペーパー本は大事な宝物である。
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