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思わず、眼を見開いた。
忘れようとしていた忌々しい過去が、
鮮明に蘇って来てしまった。
「き、君はあの時の!」
それは、僕がまだ小学4年生の時、ふざけて
後輩の坂崎ユリアに歩道橋の上で
体当たりをしてしまったのだ。
勿論、ほんの悪戯心だったのだが。
歩道橋から転落したユリアはアスファルト
に落下した途端、トラックに轢かれて
首だけが飛んだ。
胴体部分には、トラックのタイヤ痕が
はっきりと残っていたという。
殆ど目撃情報が無いまま、警察により自殺
と断定されてしまったのだ。
当時も、大雨が降りしきる中での出来事
だった。
「悪かった!ほんの出来心だったんだ。
まさか落ちるとは思わなかったんだ!」
既に、恐怖と興奮で全身が小刻みに
震えていた。
「坂崎さん、何でも言う事聞くから
許してくれ!」
僕は床に座り込み、土下座の格好に
なった。
「でも、君は死んだんじゃ・・・」
見上げるとユリアが僕を見下ろしながら
椅子から立ち上がった。
すると、両目の部分に窪みが出来て
顔全体がミイラのように変化した。
「ギャー!!」
産まれて初めての絶叫だった。
『今から私は警察に行きます、そして
何もかも真実を話します』
その時僕には、今までの全ての箍が
外れたような気がした。
「現在の幸福を、この化け物に滅茶苦茶に
されてたまるか!」
ユリアが、部屋から出て行こうとすると。
「待ってくれ!俺の話を聞いてくれ!!」
自分でも信じられなかった、どうして
こんな事を思いついたのか。
咄嗟にキッチンルームに走り、刃渡り
30センチの出刃包丁を持ったまま、
彼女を追いかけた。
左手で彼女の腕を思い切り引っ張り、
抱き寄せた瞬間左胸を一突きにしたところ
彼女はその場に崩れ落ちた。
尚も、馬乗りになって攻撃が続く。
首をめがけ、何度も包丁を叩きつけた。
「君が好きだった・・・君は僕の初恋の
人だったんだ」
包丁で身体中を刺しているうちに、
とめども無く涙が溢れていた。
その時、僕は悟った。
「・・・両親を殺したのは君なんだね」
逆に今度は、憎悪だけが芽生えた。
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