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成り行きから始まった祥吾との関係だが、こんな風に、ゆるゆると肩の力を抜いた時間を過ごせるとは思ってもみなかった。今まで付き合ってきた男たちとは全然違うのに、そもそもそんなにタイプというわけでもないのに、彼のそばにいるとたまらなく居心地がいいのだ。身体の相性もぴったりだし、もちろんそれだけでなく、祥吾は、見た目の無骨さを裏切ってこまごまと気が利く。押しつけがましくない程度に、ほどよい具合で合いの手を入れてくれるのだ。今、肌を涼しく撫でている扇風機もだが、この手の中にある麦茶もそうだ。
朋紀は、カラン、と小さくグラスを鳴らしてそれを見つめる。
汗をたっぷりかいているグラスの中には、細かい氷片と大きい氷とが混在していた。冷たいものを飲ませてやりたいという、祥吾の繊細な気配りだろう。どうりで、戻ってくるのが遅かったし、製氷室をやたらごそごそかき回しているなと思っていたのだ。
それに気づいた時は、浮き沈みしている氷の白く凝結しているところのように、胸の奥がぎゅっと引き絞られる心地がした。こんな関係にならなければ、元幼馴染みのこういうところには一生気づけなかったに違いない。
祥吾のさりげない優しさが沁み渡り、乾いていたと気づけないほどからからに疲弊していた心が、じんわりとほとびていくのが分かった。そして同時に、都会での華やかな成功でもなく、見栄えのいい恋人でもなく、自分が本当に求めていたのはこれだったのかもしれないと、今ようやく実感できた。
と、祥吾のぶ厚い手に唐突に背を撫でられ、朋紀は肩を跳ねさせた。いきなりだったので驚いてしまった。
祥吾はふっ、と口角を上げ、言った。
「畳のあとがついてるな」
その部分をぺたぺたと触られ、こそばゆさに尻がむずむずしてしまう。肌がまだ敏感になっているのか、熱い手の感触が嫌に身を騒がせるのだ。
「……お前がこんなところで押し倒すからだろうが」
つい憎まれ口を叩くと、祥吾は面目なさそうに頭に手をやる。
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