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でもそんなゴチャゴチャは、すぐに全部ぶっ飛んだ。
あいつの匂いを嗅いだ途端、細胞の中の目ん玉が、ギョロッと一斉に気付く感じ。
心が少しだけサイレンを鳴らしたけど、そん時はまだ、時期じゃなかった。
匂いにやられて一気に崩れたオレを、
ヨイショと背中に背負ったそいつが後ろを振り返った。
「 …部屋に連れて行く。 誰も来るな。 それとドアの隅を全部ガムテで塞げ。 鶴川屋の匂いを外に出すな」
「しょ、庄介さん…! そいつの右腕はあの薬師っすよ!? ちゃんと段取り踏んで納得させてからの方が…っ」
「そんなん待てるか。 薬師も運命にまでは勝てっこねえ。 絶対に邪魔させんな」
( …薬師…)
「オレは運命なんてちっとも信じてなかったし、オメガとの政略結婚も納得してなかった。 …でも、たった今、それを、変える」
自分を背負うその声が、苦しそうに途切れ始める。
息を継いでいる。
ああ、こいつもかと、思うオレの息も浅い。
これが噂の運命かとどっかすてっぱちな自分と、
こんなん納得行くか!と反発する自分。
でもそれは、鶴川屋総長として格好付けたいオレが後付けした自分で、
本当の本当は、
早く入れて欲しくて堪らない、オメガの性と、本能。
( …ああ、)
こいつが運命か。
こいつが、オレのこっから先か。
こいつが、こいつが、オレの、半身だったのか。
( …薬師…)
オレの下、オレの運命の越後庄介が、低い声で唸った。
「…この匂いは、オレのもんだ。 お前ら、こっ、から少しでもっ、…っ嗅いでみろ… 指詰めるだけじゃ終わらせねえぞ!!」
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