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抜いてちょっとすっきりしたオレはベルトを締めながら、
振り返らずに口を開いた。
「お前、いかせんのが遅すぎなんだよ」
「…すんません」
「そんくらいさっさとやれよ、アホンダラ。 急いでんのにオレで遊んでどうすんだよ」
「……」
何も返さない出来過ぎた若頭と一緒に仮眠室を出た。
すると視界に、事務所のドアを必死に抑え込んでいるゼンのデカい体。
「お、悪かったな、ゼン」
「そ、総長おおおおお」
「フジオさんの前で泣くな。 こんくらいいつもの事だろ。 いい加減慣れろ」
薬師がそう睨みをきかすとゼンが震え上がる。
オレはデカい薬師の背中を、ポンポンと二つ叩いた。
「まあまあまあ。 つうかオレの所為だしな」
「…フジオさん」
「よし、ゼン、離れろ。 どうせいつもの奴らだろ」
「フジオさん、軽めにお願いします。 抑制剤も打ったし、アルファ野郎の目を覚まさせるのは一発で十分ですから」
「わかってるよ」
「総長…」
「ゼン、いいから離れとけ」
口から残り香が漏れないよう息を止める。
いや、口から出てるんじゃないんだろうけど、
とりあえず何もかも隠すのが癖になってしまった。
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