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やっとのことで出した後、オレはそのままベッドに横になった。
クタクタだ。シャワーを浴びる気にもなれない。
家に帰ればよかったと後悔した。
( …薬師に連れて帰って貰えばよかった…)
「……」
目の前の綺麗に洗濯されたシーツ。
誰が当番だったっけとそれを爪で引っ掻く。
こそばゆい音が耳に響いた。
薬師がオレに付けられたのは、親父が医者に余命宣告された後だった。
でも薬師の存在自体は随分前から知っていた。
親父が世話になった人の息子。
それしか知らないけど、小さな頃からちょくちょくうちに来てて、昔、五歳年上のあいつから遊んでもらったこともある。
(…あん時、初めて七並べを知った…)
薬が効いてきたのか、頭が段々はっきりしてきた。
重い体を起こす。
顔も上げずに風呂に向かう。
その足取りが、自分でもフラフラと頼りない。
親父が死んで、オレは21で跡目を継いだ。
本当は他の幹部が引き継ぐべきだった。
でも親父は死に際、オレを指名した。
薬師を付ける以前にも、親父はオレの傍に必ず有能なアルファを置いていた。
でも、アルファにとってオメガの発情期は越え難い試練。
アルファはオメガの誘惑に負ける。
手を出したアルファを親父は次から次へと破門にし、そのサイクルが薬師で途切れ、
そして親父が死んだあと残ったのは、薬師とゼンとヨッシーだけだった。
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