喫煙所にて

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その言葉に、俺の思考は一瞬凍り付く。視界がチカチカと明滅して、呼吸すら止まりそうだった。だが、なんとか「へぇ」っと興味なさそうな声を絞り出す。 「彼女居たのか。知らなかったな。式はいつだ?」 「式なんざしねぇよ。くだらねぇ……つーか、まだプロポーズしてねぇしな。これからだ」 「へぇ、そっか。なんて言うんだ?もう決めてるのか?」 本当は、聞きたくなんかなかった。だが、聞かなければ。悲しんでいるのがバレたなら、俺のこの邪まな感情もきっとバレてしまう。 俺はずっと……島原の事が、好きだった。もう、三年になるかな。島原がうちの営業部に引き抜きで転職してきて、すぐの頃からだ。 元々煙草なんか吸わなかったのに、俺は少しでも島原と話をしたい一心で、30過ぎた今更になって煙草を覚えたんだ。毎日島原を追いかけてこの喫煙所を訪れていたら、今では本当に煙草が癖になってしまった。 それくらい、好きだったんだ。 「なんて言うか、ねぇ」 「何か、サプライズするのか?フラッシュモブとか」 「馬鹿じゃねぇの。んな事やるか……もっとシンプルだよ」 煙草の先にライターで火を付け一吸いすると、先端で赤い火が燻って、ふわりと島原の煙草の匂いした。火のついた煙草を咥えたまま、島原はついっと口角を釣り上げる。 「煙草一本、吸い終わるまでには言い終わる」     
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