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その表情が雄臭くて、ドキドキした。島原にプロポーズされる彼女が羨ましい。
でも、わざと仏頂面を作って見せた。
「大事な話の最中に、煙草なんか吸うなよ」
「そいつは、オレが煙草吸う時の面が好きなんだ」
俺だって、島原の煙草を吸う時の顔が好きだ。節だった太い指の間に煙草を挟んで口元に持って行く仕草も、煙を吸い込む時に旨そうに目を細める表情も、紫煙を吐き出す薄くて形のいい唇も。
全部、大好きだ。
でも……その顔を、俺よりもっと好きな人が居たんだ。
「へぇ……彼女、その。俺の知ってる人?」
「さあな」
「さあなって、隠すなよ。なあ、どんな子だよ、教えろって」
「……どんなって言われても、馬鹿だとしか言えねぇ」
「ば……彼女にそういう言い方……あれか?うちの愚妻がみたいな謙遜なら、今時流行らないぞ」
「っるせぇ。馬鹿は馬鹿なんだよ」
鬱陶しそうに、島原は俺の顔に煙草の煙を吐きかけてきた。思わず咳き込みながらも、そんな事がちょっと嬉しい。
こうやって煙草を一本吸い終わるまでの数分間、二人でたわいも無い話をして、時々島原が俺に意地悪をしてきて。そんな関係が心地良かったのに。
だけど、結婚するなら……もう、俺はここには来ない。
惚気なんか聞かされたら、死んでしまう。
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