第1章 愛しき日々  冬

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警視庁、霞ヶ関。 昨夜未明、 都内路上で発見された 身元不明の男性遺体は 他殺と断定、 本庁での捜査本部が立上がり 現在、 朝一での緊急会議の待機中である。 年明け一発目の重要事件に 会議室は緊張感に包まれている。 現場に急行したまま 今に至っている 捜査一課刑事、 狭間貴之の 崩れたシャツの首元からは 隠しきれない疲労と 中年の色気が 同時に滲み出ている。 隣席の後輩、 高柳雅哉も同様だが こちらは若さのせいか カラーまでピシッとはしているが、 生あくびをかみしめている。 開始の9時を 少しまわったところで 前方のドアが開き 若い女性警官が入室してきた。 「お、今日の記録は  総務の山村美月か。。」 狭間の後ろで 別係の捜査官がつぶやく。 「相変わらず  エッロい顔してやがんな..」 「何たって警視庁イチのヤリ…」 ドカッ 激しい物音がした。 狭間が 前の長机の脚を蹴り上げたのだ。 何人かが振り返る。 うたた寝しかかっていた高柳は 衝撃で目が覚めた。 後方の刑事達は 彼が若手に活を入れたものと 勘違いしたようだが そのまま押し黙った。 相手が二係の狭間だと 気づいたせいもある。 司令部隊が現れない為、 会議が始まる気配が全くない。 室内の空気が険悪になっていく中、 前列で着席していた美月が 思いついたように立ち上がった。 刑事席の間をぬって こちらに向かってくる。 狭間の前に立った。
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