876人が本棚に入れています
本棚に追加
それとも彼が悲しい運命をたどることになって、それを僕は後悔しただろうか?
けれどそれらを僕は考える必要はなかった。
だって僕は逃げなかったのだから。
必死になって鎖をほどこうとする僕の傍で、風を切る音がする。
振り返るように見上げると、銀色の大きな鎌が青白い光を纏いながら、僕へと降り下ろされる最中だった。
これは武器に魔力を纏わせたものだと後で知ることになるが、その禍々しさに僕の血がざわめく。
しかも、視界の端に振り下ろした男が、にやついた笑顔でいるのが見える。
下種(げす)が!
強い感情が僕の中で膨れ上がった。
そしてそれは、不可視の力、空気の流れとなり甲高い音を立てて僕に振り下ろされようとしていた鎌に突き刺さり、鎌が砕け散る。
その鎌を振り下ろした男が、不思議そうな顔をして僕を見た。
そして僕はその男を睨み付ける。
この男達は、“悪人”だ。
多くの子供がそうであるように、ヒーロー物の物語に憧れ、敵を憎むように僕は、彼らを“許せなかった”。
知識があったわけではないし、それは僕自身の感情に誘発された、拙い能力の発露だった。
再び風が吹き荒れる。
鎌を持っていない方の男は魔法使いのようで、僕のその力を打ち消そうとしたけれど、無理であったようだ。
「何だ、何なんだお前は!」
最初のコメントを投稿しよう!