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8年前、わたしは多分人生でこれ以上はないと思うくらい
恋をしていた。
親が経営するカフェが出す、毎年恒例の海の家で
そこにひょっこりと現れた、わたしより少し年上で物腰の柔らかそうな、およそ海が似つかわしくないインテリ風な人と。
茶髪や金髪が当たり前の海付近では珍しい黒髪で、涼やかな目元が印象的。
海水浴客には浮かれきった輩が多くて、ナンパ男ばかり
見てきたわたしには新鮮だった。
『君が作ってるんですか?このカレー』
『……はい』
『美味しいですね。ファンになっちゃったな』
それがまともな最初の会話だった。
母の手伝いの傍ら、店のレシピを母から教わって作るようになった頃だ。
優しげに微笑んでそう言われた時から、わたしは彼の虜になっていたのかもしれない。
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