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ドキンドキンと鼓動が高鳴り、足が震えてくる。
普通のお客さんなら、声をかけて帰ってもらうだけなのに。
思い出して、来てくれたのか
それともまだ記憶は戻らないままなのかも分からないから
うまく声が出せない。
航輝さんの出方を窺って、じっと見つめていたら
彼はこちらへゆっくりと歩いて来た。
身体中の血が逆流しそうなくらい緊張で全身が熱くなる。
彼は、言葉もなくわたしをじっと見据えてから
指で目頭を抑えて俯いた。
ほんの数秒の動作なのに、時が止まったようにとてつもなく長く感じていると
ふいに彼は顔を上げ、辛そうに口元を歪めながらも
ーーーーわたしの名前を呼んだ。
「…………凪沙」
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