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「椎名さん、お待たせ」
僕には父から半ば強制的に押し付けられた、見合い相手がいる。
会社の発展のために、という政略結婚を強いられている結果だ。
全く乗り気じゃなかった僕は、形だけといって見合いはしたが、結婚なんてするつもりはない。
「いえ。タクシー呼んでおきましたよ早穂(さほ)さん」
が、親へのカモフラージュとして時折食事くらいは行っていた。そのせいで周りにはすっかり婚約者だと思われている。
今はその食事の帰りだ。
彼女にも最初からその気はない旨の話はしていた。
強気な彼女は、プライドが刺激されたのか「なら、私の方へ向かせてみせるわ」と笑った。
けれど、僕が事故に遭った時、よくお見舞いに来てくれていて
正直、扱いに困り始めてしまった。
情が移ってきたというべきか。
「ねぇ、椎名さんには好きな人がいるの?
正直、いつまでもこうしてカモフラージュしてはいられないわよね。私の父も、随分のんびりしてるな、なんて渋い顔してるわよ。
特段そういう相手がいないなら、私との話、本気で進めてみない?」
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