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「………記憶?」
「あぁ。人影がね、ちらつくんだ。
誰なのか分からないし思い出しようもないんだけど、
多分、なくした記憶に関わる人じゃないかと」
仕事終わりに、軽く飲もう、と堤と共にバーに訪れていた。
そこで思い切って、記憶の話を振ってみた。
堤は、何も言わず眉間に皺を寄せながらつまみで頼んだナッツを口に運んでいる。
「どんな人か説明出来るか?」
「肩まである髪がウェーブがかってる」
「それだけじゃ何も分からないな。そんな人、いっぱいいるだろ」
「だよな」
堤とは、仕事を離れた時はいつもタメ口だった。
冷静で頭が切れて、僕とも波長が合う。
「……他に思い出せることはないのか?」
「う~ん。
その影を見ると、胸がざわつく」
「…………そうか」
どことなく堤が言葉少ななのは、何か引っかかることでもあるからだろうか。
それとも、逆に何もなさすぎて言葉が出ないだけか。
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