帰りたい場所【side 航輝】

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「マンションのリノベーションの案件、覚えてるか?」 堤が突然、仕事の話をし始めた。 不思議に思いながらも答える。 「その計画が出来たとこまでね。それが動き出してたってことは事故後に聞いた」 「その実現に向けて、あのマンションがある街によく通ってたんだ。近いからって自分の別荘に寝泊まりして」 「別荘……」 そういえば、あの案件は海のそばだった。 近くにたまたま別荘があるので、自分なら確かにそうしただろうと納得もできる。 「だからその頃、椎名がどんな生活してたかはわからない。けど…… 大事な何かを見つけたみたいな顔してた」 「大事な?」 「事故で失ったのはその大事な何か、誰かの記憶。ちらつくっていうのはその誰か、かもしれないな」 と、いうことは。 「堤、お前、心当たりあるのか? なんで黙ってたんだよ」 「……お互いのため、かな。どうにもならないこともある」 堤は自嘲的な笑みを浮かべて、僕から視線を逸らした。
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