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それと共に断片的にいくつも頭の中に映し出された映像には
僕と、いつも影でしか見えない彼女が色を伴って現れている。
この別荘で飯を食べたり、外で花火をしたり
抱き合ったり……
とにかく夢のように幸せそうな情景。
目元までは見えないけれど、彼女の眩い笑顔。
恥ずかしそうに俯く顔。
全てに甘い感情が沸き起こりかけたところで、ズキンと大きく、頭が割れそうに痛みだす。
「つっ……!」
思わず呻いて頭を抱えた。
ズキンズキン、と脈打つように痛む頭。
これ以上思い出すな、とまるで警告のようだった。
深呼吸を繰り返しながら、その痛みをやり過ごしていると
ツー、と目尻から何かが流れていく。
驚いてその筋を手で拭うと微かに濡れていた。
……これは。
僕の記憶から抜け落ちているのは、確かに大事なものだと、本能が悲しみを僕に伝えたとしか思えなかった。
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