帰りたい場所【side 航輝】

10/37
前へ
/76ページ
次へ
それと共に断片的にいくつも頭の中に映し出された映像には 僕と、いつも影でしか見えない彼女が色を伴って現れている。 この別荘で飯を食べたり、外で花火をしたり 抱き合ったり…… とにかく夢のように幸せそうな情景。 目元までは見えないけれど、彼女の眩い笑顔。 恥ずかしそうに俯く顔。 全てに甘い感情が沸き起こりかけたところで、ズキンと大きく、頭が割れそうに痛みだす。 「つっ……!」 思わず呻いて頭を抱えた。 ズキンズキン、と脈打つように痛む頭。 これ以上思い出すな、とまるで警告のようだった。 深呼吸を繰り返しながら、その痛みをやり過ごしていると ツー、と目尻から何かが流れていく。 驚いてその筋を手で拭うと微かに濡れていた。 ……これは。 僕の記憶から抜け落ちているのは、確かに大事なものだと、本能が悲しみを僕に伝えたとしか思えなかった。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

542人が本棚に入れています
本棚に追加