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堤は一度、僕が入院中にここへ来たことがあったらしい。片付けなどをしてくれたことを聞いた。
「で、何か思い出したのか?」
「いや……思い出したというか、大事な記憶があったのだけはわかった」
そうか、とだけ呟いて堤は大きく息を吐く。
「堤が焦ってここまで来たってことは、僕が失った記憶を取り戻すと不都合が何かとあるってことだよな?」
ヒントをくれたのは堤だが。
「まぁ、端的に言えば会社のためにはならない」
会社、か。
ため息を吐きながら、僕はゆっくりと身を起こしてソファに座り直した。
「それ以上は言えないんだろ?」
「社長の判断はいつも間違ってはないと思うよ。人道的にどうかは別としてね」
「その判断ってやつに、僕の記憶は封じられたってことか」
「……なぁ、それって本当に必要か?」
「え?」
「“今”は必要ないんじゃないのか?
無理に思い出さなくても、いつか必要な時に戻るかもしれないだろ」
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