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堤の言葉に面食らって、僕は口を閉ざした。
「大事な記憶だからこそ早く取り戻したい気持ちも分かるが、今は他にやるべきことが山のようにある。
社長に楯突くようになれるくらいの力が、椎名には必要だろ」
「……冷静なお前らしいな」
わかっている。
堤が言いたいことは、わかっている。
けれど、簡単に頷けない何かが僕の中で沸き起こってしまう。
理屈じゃないんだ。
いつか思い出した時にはもう、全てが取り返しのつかないことになっている気がするのに。
言いようのない悔しさが込み上げてきて、拳をぎゅっと握りしめた。
「いつか、じゃ遅い気がするんだよ」
「……もう遅いかもしれないぞ?」
「それでも、父に真実を聞くことくらいできるだろ」
「社長が教えると思うのか?」
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