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それからしばらくして、話があります、と父に時間を作ってもらった。
内容としては、早穂さんとの婚約はしないということと
僕の意識がない間に何があったのかということ。
父は僕の話を聞きながら、深い皺を眉間に寄せていった。
「お前は会社を潰す気か?
何万といる社員とその家族を路頭に迷わせるなんて出来ないんだぞ」
「何も政略結婚なんてしなくても、僕が今までどおり支えてみせます」
「……何か思い出したのか?女の記憶でも」
「だったらどうなんです?」
「くだらないな。一時の恋愛感情なんて、すぐ冷める。
実際、お前の相手もあれ以来、こちらに接触すらしてこなかったんだからな。もう随分時間が経ってる。向こうも忘れた頃だろう」
堤の言葉が思い出された。
もう遅いかもしれない、と。
そして、次の言葉で僕は氷のように固まった。
「別れてくれ、と頼んだらあっさり引き下がったようだし。慰謝料が効いたかな」
ハハハと笑う父に心底、嫌気がさした。
この人の血が僕にも流れてるのかと思うと吐き気がする。
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